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大阪高等裁判所 平成6年(ネ)838号 判決

主文

一  原判決主文第一項を次のとおり変更する。

1  控訴人は被控訴人岡山順子に対し、原判決別紙物件目録(三)記載の建物を明け渡し、平成四年三月三日から右明渡ずみまで一か月金四万五一一五円の割合による金員を支払え。

2  被控訴人岡山順子のその余の請求を棄却する。

二  控訴人のその余の控訴をいずれも棄却する。

三  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人らは控訴人に対し、原判決別紙物件目録(一)ないし(三)記載の不動産につき、昭和四六年一月一一日時効取得を原因とする共有者全員持分全部移転登記手続をせよ。

3  被控訴人岡山順子の請求を棄却する。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

一  当事者の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実欄「第二 当事者の主張」記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三枚目表八行目の「建物」の次に「(以下「本件建物」という)」を加え、同四枚目裏五行目の「相続」を「取得」と、同行の「た。」から同六行目の末尾までを「、控訴人は、本件不動産を単独で取得したものと信じるに至った。」と、同七行目の「原告は、同日」を「控訴人は、同月一一日」と、同一〇行目の「原告」を「控訴人」と、「二六日」を「一一日」とそれぞれ改める。

2  原判決五枚目裏四行目の「原告」を「控訴人」と改める。

二  当審における主張

1  控訴人

(一) 被控訴人順子の本件建物に対する共有持分

法例に基づき、被控訴人順子と高との間に親子関係が認められるためには、両者の本国法がいずれも親子関係を認める必要があるところ、同被控訴人の本国法である日本法によれば、右親子関係が認められないから、高が亡昌樹から相続した本件建物に対する共有持分三分の一は、被控訴人吉正、明順、同吉子の三名に帰属し、被控訴人順子には帰属しない。したがって、同被控訴人の本件建物に対する共有持分は六〇分の五となる。

(二) 取得時効

仮に本件不動産全部についての取得時効が成立しないとしても、控訴人は、昭和四六年一月一一日以降、本件不動産につき、自己が亡昌樹から相続した三分の一の共有持分を有するものと信じ、自主占有を開始したから、平成三年一月一一日の経過により、右共有持分につき取得時効が成立した。

(三) 相続回復請求権の消滅時効

控訴人は、前記婚姻取消の訴えが提起されるまで重婚の事実を知らなかったが、仮にそうでないとしても、控訴人は、日本の戸籍上亡昌樹の「妻」として記載されていたのであるから、自己の婚姻が有効であると信ずることには合理性があり、控訴人が亡昌樹の相続人であると信じたことにつき過失はない。

2  被控訴人ら

控訴人の主張はすべて争う。未分割の相続財産はいわゆる合有であって、相続分に対応する共有持分は時効取得の対象とならない。

理由

一  当裁判所の判断は、以下のとおり付加、訂正するほかは、原判決理由欄一、二記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決六枚目裏七行目の「同法」から同一〇行目までを以下のとおり改める。

「旧韓国(一九七九年改正前)民法七七三条、七七四条、一〇〇〇条、一〇〇二条及び一〇〇九条に準拠して決せられる結果、高の財産相続につき、同一家籍にない女子である被控訴人順子の法定相続分は一三分の一となるから、同被控訴人は、本件建物につき四六八分の五一の持分を有することとなる。この点に関する当審における控訴人の主張は、独自の見解であって採用することができない。

〈省略〉

2  原判決七枚目表一行目の「結果」の次に「及び弁論の全趣旨」を、同行の次に「控訴人は、亡昌樹死亡後本件建物に被控訴人順子及び岡山稔とともに居住していたが、昭和四六年一月一一日他に転居し、以来、本件建物の賃借人らから賃料を収受し、本件建物を管理している。」をそれぞれ加え、同七行目の「後日」を「間もなく」と改め、同裏二行目の「被告は、」の次に「遅くとも昭和四六年一月二三日から数か月を経過しないうちに」を加え、同五、六行目の「亡昌樹死亡後間もなく」を「前記報告を受けた後」と改める。

3  原判決七枚目裏八行目の「抗弁」から同八枚目表六行目までを以下のとおり改める。

「取得時効の抗弁について

前記認定の事実によれば、控訴人は、遅くとも昭和四六年一月二三日から数か月を経過するまでの間に、本件不動産につき所有権はもとより相続による共有持分もないことを知り、その後は、所有の意思をもって本件不動産を占有したものではないというべきであるから、本件不動産の所有権または共有持分について取得時効が成立するとの控訴人の抗弁は、いずれも理由がない。」

4  原判決九枚目表一行目の「六〇」から同二行目の「円」までを「四六八分の五一の持分を有するから、右持分に応じ、一か月金四万五一一五円(円未満切捨)」と改める。

二  以上によれば、控訴人の被控訴人らに対する請求は失当として棄却すべきであり、被控訴人岡山順子の控訴人に対する請求は、主文第一項の限度で認容すべきであるから、原判決主文第一項を主文第一項のとおり変更し、控訴人のその余の控訴をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

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